2025/03/07 21:35

【時を超える色】


私が想うフランスの色のお話です。


映画版『ベルサイユのばら』を観たとき、私はある違和感を覚えました。それは色彩の感覚です。

私が思い描いていたロココの色の世界とは異なり、色の情報量が多く、繊細なニュアンスが埋もれてしまったように感じました。


しかし、その話をする前に、まずは私が感じた「ロココの色」についてお話ししたいと思います。


ベルサイユ宮殿の華やかな装飾とは異なり、プチ・トリアノン宮はマリー・アントワネットのための穏やかな隠れ家でした。

華美な宮殿を離れ、田園風景の中に溶け込むように建てられたその場所はのイメージは


色彩で言えば、ソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』で描かれていた色使いが、私の思い描くロココの世界に近いものでした。

この作品は、2006年当時の若者にもアピールするような色彩設計がされており、少しポップに表現されていました。


その後、私は実際にトリアノン宮を訪れました。そこにあったのは、ベルサイユ宮殿の黄金や大理石の輝きとは違う

そのインテリアは驚くほど淡く、ロココの余韻だけがそこに残っているような空間でした。


壁や家具はすべて柔らかな色合いに包まれ、自然光の変化によって印象が変わる微妙なニュアンスが息づいていました。

そこには、まるで当時の人々が奏でていたかのようなチェンバロの音が響いているように感じました。

今の時代にはない、歴史の残り香を纏う色の世界がそこにはあったのです。


私のフランスの色彩への想いの原点は、池田理代子先生の『ベルサイユのばら』です。

子供の頃から何度も読み返した愛読書、白と黒の静寂の中に、きらめくフランスの色と美学、芸術の国のまだ見ぬ美しい色の世界が私の想像に広がりわたっておりました。


しかし、今回の映画版『ベルサイユのばら』は、令和の若い世代向けに鮮やかな色使いがされており、私が感じていたロココの繊細な色彩とはまったく異なる印象を受けました。(やはり世代や原作の受け取り方によって違いますね。映画の内容や名セリフに忠実なところ、また後半の革命・進撃の場面の描写はすばらしくとても楽しかったのですが)

情報量が多く、忙しさに色の響きが埋もれてしまったように感じました。繊細なニュアンスが薄れ、めまぐるしい華やかさが前面に押し出されていたのです。


私は「時を超える色」を作るために、色彩の一つひとつに時間をかけて、想像の中の18世紀のフランスにワープするような気持ちで

色をここに持ち帰るようにしてファブリックに落とし込んでいます。


それは、単なる美しさではなく、歴史と記憶が息づく色のような感覚です。

だからこそ、今回の映画の色彩にはどうしても違和感を覚えました。


もちろん、感じ方は人それぞれです。

この映画の鮮やかさが好きな人もいるでしょう。若い世代が興味を持つ形で名作が伝わったのは素晴らしいことだと思います。

しかし、私はもう少し静かで、音楽も踊りもすべてがゆっくりだった時代の

すべてがアナログで作られていた時代の、深みのあるロココの色を求めてしまいます。


この感覚は、おそらく『Edenの布』を愛してくださる皆様にも共感していただけるのではないかと思っています。

私の作る色は、どこか懐かしく、時間を超えた静けさを感じさせるもの。

そして、それを美しいと感じる感覚を共有できる方々と、ここで繋がれていることをとても嬉しく思います。


私は、その感覚を頼りに、何度も色を作り試し、このトリアノンブルーやローズカルムを生み出しました。


そして、この色が光に当たった瞬間、2025年の春の光の下で、私は充足感でいっぱいの気持ちです。


ファブリックを広げると空気そのものが変わるような色。その感覚を、ぜひ体験していただきたいです。


このトリアノンブルーを含む限定ファブリックは、現在販売中です。

特別な色彩の世界をご自宅でお楽しみください。


販売期間:3月10日まで

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